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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1614号 判決 1977年3月17日

控訴人

植山一郎

被控訴人

森捷平

被控訴人

大木ぎん

右両名訴訟代理人

栗原孝和

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所は、控訴人の被控訴人らに対する本件請求は失当であると判断する。その理由は次のとおり附加・訂正するほか、原判決理由記載(但し、当審において請求を減縮した部分に対する判断部分を除く。)と同じであるからこれを引用する(但し、引用部分中原告とあるのは控訴人と、被告とあるのは被控訴人とそれぞれ読み替えるものとする。)。

(一)、(二)<省略>

(三)  原判決三〇枚目―記録四六丁―裏一行目に「な」とあるのを削り、次の丁の裏六行目の次に行を改めて、

そこで、本判決理由二の(6)において認定した事実中、田中稔が銭高組係員に対し『もし建築を続行するならば、建築禁止の仮処分をお願いして裁判所の判断を仰ぐよりほかに方法がない。』と述べたことが所論のとおり不法行為を構成するか否かにつき判断する。

田中稔の右発言は、これを形式的に捉えれば一応「加害を告知して他人を畏怖させる」行為に該当することを否定しえないところである。しかしながら、右行為は次の理由で控訴人に対する不法行為を構成しない。以下これを述べる。

(1)  右発言は田中稔によりなされたものであるからこれにより被控訴人らが不法行為上の責任を負うには、右のような発言をするにつき被控訴人らが田中稔と共謀したか、これを教唆又は幇助したかの事実が存在することが必要とされるところ、これら事実を認定するに足りる証拠はない。よつて田中稔の右発言に基づき被控訴人らは何ら不法行為上の責任を負うものではない。

(2)  また、右のような発言が不法行為を構成するためには、これが違法であることを要するところ、前認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人らを含む前記会の会員らは、本件高層住宅が完成することによつて受ける実生活上の不利益が甚大であり、受忍限度を超えているものと判断し、その反対運動の一環として前記のとおり銭高組係員と会談したのであり、その際田中稔が法律家としての立場から正当な権利の行使の予告として右発言をしたものであることが認められ、このとき、控訴人に対し不当な損害を与える意図や被控訴人らを含む前記会の会員に違法・不当な利益をもたらす目的が田中稔や被控訴人らに存在したと認めるに足りる証拠はないから、右発言も前認定の状況下においては、社会的に認容された行為として違法性を欠くものというべきである。

(3)  更に脅迫が不法行為を構成するには脅迫の相手方が畏怖したことを要するところ、前認定の事実関係によれば、前記会談に先立ち銭高組は控訴人との間に本件高層住宅建築の仮契約を締結するに当り、近隣の住民の反対運動は控訴人において円満解決すべく、これが解決をみない限り建設工事に着手しない旨の合意をしていたのであり、銭高組としては、いはば、退路を確保しつつ事に臨んだのであるから、田中稔の前記発言も住民の反対運動が熾烈であることを認識する一資料として受け取り、よつて右仮契約の趣旨に則り、工事の着手を白紙に還元したものであり、この間銭高組側において田中稔の発言に畏怖したとは考えられない。したがつて、右発言は不法行為を構成しない。」を加え、同裏七行目に(5)とある次に「及び(6)(一部)」を加える。

二以上の次第で控訴人の被控訴人らに対する本件請求はいずれも失当であり、これらを棄却した原判決は相当で本件控訴はいずれも理由がないから棄却すべきである。

よつて、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(吉岡進 兼子徹夫 太田豊)

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